Histoire d'O selon Oraclutie

『O嬢の物語』を読む - 「ロワッシーの恋人たち」
第8回, On lui expliqua qu'il serait toujours ainsi ...

段落がかわり3つめの段落となる。「男たち(on)は彼女に説明した...」と始まるこの段落は、男たちのOに対する言葉を間接話法で記述する文と、彼女が見せられたものについての記述からなっている。

男たちが、Oに説明するには、Oは昼間は男たちの顔をみることはできる、すなわちどういった人々が彼女を陵辱し拷問しているかを知ることはできるが、夜になって実際にそれが実行される際には、目隠しによってどの個人がそれを行っているかを知ることはできないと言う。これはもちろん、男たちの責任の回避というよりも、ここで加えられる暴力が、特定の男性と特定の女性の関係を伴うものでなく、非人格的なものであるという原則を、暴力を受ける側に徹底させることにある。誰からのものであろうと彼女はその暴力を、愛情や嫌悪を離れたところで、自分の理解のあずかり知らぬところから来る匿名の力に対するものとして甘受しなければならなぬ。日本のSM小説にときどき、監禁した女性に対し、洗練された本命の調教者と野卑なチンピラたちが交互にニュアンスの違う苛虐行為を加えることで、次第に主たる加虐者へのパラドクサルな愛情を固着させていくという心理的操作を描くものがあるが、これとはまったく異質の冷たい世界である。この夜はO自身に自分が鞭打たれる姿を見せるために、目隠しはされず代わりに男たちのほうが仮面をつけることになると告げられる。

以前として後ろ手に拘束されたまま恋人の傍に座らされたOに、これから彼女を虐待する道具、すなわち鞭がが見せられる。それは次の3種:

1. 乗馬鞭(cravache)
2. それぞれの先端に結び目を作ってある6本の長い革紐でできた鞭
3, 先端に複数の結び目がある細い綱を集めてつくった鞭

この3種の鞭については次の段落でも触れられることになるが、それを参照しながら、既存の邦訳で説明の及んでいない部分について解説する。

1.乗馬鞭そのものについて改めて説明の必要はないだろう。Oraclutie主サイトにではたびたび登場しているし、テクニカルな問題についてはそこでおいおいとりあげるつもりである。ただ「大きな馬具商のショーウィンドーで見かけるような、皮の鞘のついた上等の竹製の、黒い長い、しなやかな鞭」(澁澤訳)という訳(鈴木訳、長島訳もほぼ同じ)については若干コメントが要る。ここで「鞘」と訳しているものは、鞭の本体をを出し入れできるような刀の鞘のようなものではない。これは鞭の構造に関わるものであり、原文の "la cravache, qui était noire, longue et fine, de fin bambou gainé de cuir" は、「細い竹を革で被覆した黒く、長い、細い乗馬鞭」と読むべきである。乗馬鞭は握りと長いしなやかな身の部分と先端の舌(claquette)の部分からなっているが、身の部分は現在ではグラスファイバーの芯が一般的で、それをナイロン繊維などの強い糸で編み上げたようにあるいは螺旋状に被覆してある。ここで記述してあるのは、その芯の部分が竹、被覆の部分が革だということである。

2.これはいわゆる martinet(房鞭、バラ鞭)と呼ばれるものの変種だが、紐の数が6本と少なく長いとなれば打撃感がシャープな一本鞭の感じに近くなってくる。そして先端の結び目はもちろん房の先端に重量を与え振ったときのスピードを増すためと、肌にあたったとき切り裂く効果を高めるためのものである。先端が結び目という生やさしいものでなく金属のアタッチメントになっているものは、主サイトのほうに引用した『ガミアニ』に登場した。

3.は後の段落で名称が出てくるように、garcette と呼ばれるものである。船で用いる綱で作ったもので、かつて水夫の間で用いられたと辞書には解説がある。綱だけではインパクトが弱いのでいくつも結び目を作ってある。ネット上の仏和海洋辞典に次のような、簡潔な解説がされている −− 「garcette: n.f.[海][昔、水夫を罰するのに用いた]解いた古綱で作った(編んだ)鞭・小さい綱」。 さて、この garcette は「水に浸してあったかのようにすっかり固くなっており、実際にそうされていた」と記述されている(「まるで焼きを入れたように」という澁澤訳は読み込み過ぎ)。一般的な事実としてこういった綱が水に湿らせることによって密に重くなることは理解できるが、garcetteを用いた鞭打ちの技法としてそういう習慣があったかどうかは私には分からない。鞭が水に浸してあったそのことを、Oも確かめることができた。というのは、その場で男たちはこの鞭で彼女の下腹部を撫で、この綱が腿の内側の柔肌にどれほど湿って冷たく触れるかをよりはっきりと感じさせるために彼女の両腿を開かせたからである。


7. Voici comment ils étaient faits ...
9. Restaient sur la console ...



アレクサンドル・デュマ(父)の小説『パンフィル船長 Le Capitaine Pamphile』にgarcetteによる鞭打ちの場面が登場しているのを検索中に発見。ここではそれほど痛そうじゃない。






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