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2003年11月20日
ボージョレー・ヌーヴォー

日本のように派手ではないが、フランスでもやはりボージョレー・ヌーヴォーの入荷解禁は話題になる。近くのビストロで一杯づつ飲んだあと、 R***が毎年これと決めている銘柄のを買ってきていっしょに飲む。今年は記録的な猛暑のせいでなにかと到来以前から話題になっていたが、予想にたがわず例年とはまったく異なる。かなり濃いガーネット色。タンニンが強く新酒とは思えないほどボディがしっかりしている。この腰の強さを表現するのに多くの人が、charnu 「肉付きが良い」という語を使う。口に含んで熱気を感じさせるワインだ。新酒を処女にたとえるのは常套的な比喩だが、その線でいくと、今年の乙女は、波乱の夏を体験してしっかりと成熟した女として迫ってくる感じ。こんなヌーヴォーは初めてで少しとまどうが、個人的には好みだ。軽薄なバナナのアロマが後退したのも感じがいい。

赤ワインを飲むR***の姿--すこしぷっくりした唇がグラスの薄い縁に触れ、赤い液体が流れ込んでいく光景を眺めるのはいつも好きだ。知り合って間もないころ、縁が丸まってなく切れそうなほど薄いグラスを買わせたことがある。唇でワイングラスの縁を鋭敏に感じるときに、硬質の薄くて冷たいガラスのオブジェが下腹の唇の間をそっと愛撫する感覚を想像するように、そして、これからワインを飲むたびに、いつでも、その感覚を上と下の唇で感じとるようにと言い添え、要求した。

あれからどれだけ二人でワインを飲んだろうか。実をいうと、ワインが水がわりになるような生活の中で私の要求した感覚の連合が常に100パーセント意識的になることを求めたわけではないが、R***の感性の中にそれが触覚に近いレベルで焼き付くことが重要だった。以来このことを明示的に話したことはないが、新しく購入するグラスを選択するときやレストランで出てくるグラスを論評するときに、しっかりと私たちの中の暗黙の基準になっている。そうして選んだお気に入りのグラスでR***がワイン、とりわけ赤いワインを飲む姿をみるのはいつも心地よい。

Autel 記
© Autel & R***
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